セバスチャン・サルガド講演会全文

  • 2009.10.23 Friday
  • 23:18


サルガドスピーチ全文 〜Speech by Sebastiao Salgado
2009年10月23日@加計塚小学校
東京都写真美術館"AFRICA"展オープニング


アフリカに住んでいる人は、黒い色をして、部族独特の習慣をもち、一見すると日本とは全く違うように見える国ですが、実際はとても日本に近い国だと思います。むしろほとんど日本だ、と言っても過言ではないと思うほどです。私の祖国ブラジルには、かつて多くの日本人が移り住みました。今や日系のブラジル人は珍しい存在ではなくなり、完璧に同化しています。また、同じ様にアフリカ人もブラジルに来ていて、現在は人種の多くをアフリカの血が占めています。

違う国でも大切な事というのは同じです。どの国の人々でも唄を唄えば楽しいと感じますし、子供が喜ぶ顔を見ればその母は嬉しいと思うものです。しかし、この広い世界ではひとつ、大きな違いがあります。それは、経済的な豊かさです。日本のように豊かな国もあれば、アフリカのように貧しい国もあります。アフリカは暴力や大飢饉がある危険な所だと思われているかもしれませんが、日本も60年前は同じ状況だったのではないでしょうか。現在のアフリカは、まさに60年前の日本と同じ状況だと言えるでしょう。それでもアフリカという国の姿を見てほしいのです。戦争や自然の猛威などの理由で、確かに痛めつけられた姿もありますが、自然や動物は本当に美しく残されているのです。


*Genesis Project*

私たちは今不思議な時に生きています。世界のあらゆる会議で二酸化炭素の問題や、貧困の国々の問題、あるいは各国の格差社会についてなど色々な事を話し合っています。しかし、一方でそのやり取りは物事の本質からずれてきているのではないでしょうか。本当のソリューション、解決策がなんであるかを私は考えたいと思いました。

この世界の富の大部分を独り占めしている所があり、その反面、生きて行くのがやっとという人も数多くいる。それは格差が広がっていると言う事です。私は日本工芸大学でワークショップを毎年開いていますが、その授業で"あなたの見た日本"を撮影してきてもらい、その撮影してきた写真を見たら、多くの学生が日本の貧困の姿を写してきました。私はそのとき、日本にも経済格差が確かにあること毎年強く感じるのです。しかし、日本に限らず、アメリカも、ヨーロッパも、格差社会は驚く程のスピードで広まっています。

快適さを求めるが故に、自分たちのためだけに地球の大切な自然を破壊しています。日本のものすごいスピードで進められた都市化と同様、中国やインドでも同じ傾向が見られ、どんどん自然とのコンタクトが減少しています。これは「自分たちだけ」という傲慢な考えを私たちが持っているからに他なりません。今ほど沢山の食料が生み出され、逆に飢饉で死に絶える者がいる時代は無いでしょう。核エネルギーもどう使用してよいかわからず、爆弾にするしか手だてはなく、無駄使いや無駄な消費は土壌の汚染を呼んでいます。そして、森林破壊は北半球で顕著に進んでおり、生物の多様性が失われてきています。つまりは生きるための大切なエレメントが失われてきているということです。人間は自然の一部です。自然と共存していままで生きてきました。けれども今それを破壊しているという現実を見る必要があるのです。

(ちょっと余談ですが・・・と切り出し、妻レリアとブラジルで植林をした話をする。)

私はやはり写真家ですから、写真で環境に何か貢献出来ないか、ということを常に考えています。そこで、今まで写真集や写真展のデザインを担当してきた妻のレリアと共に新しい切り口で、写真を使った自然へのアプローチを考え企画を進めて参りました。

"地球のアンバランス"についての話をしました。それは、「君は動物のようだね。」と言われたら「なんだと。」と怒るだろう人々へ送りたい話です。リサーチをしたら、まだ地球の46パーセントはジェネシス(起源時)と同じ状況にあると気がついたのです。46パーセントが自然な状態というのは、海面を除いての話です。例えば、その46パーセントのうちいくらかは、砂漠ですし、熱帯雨林ですし、寒冷地の森林、あるいは高山地帯でもあります。ジェネシスプロジェクトとは、そこに行って、写真を撮って、みんなが見た事の無い景色を見せる、というコンセプトの元に始めました。それで、その写真から真の意味での地球の自然の素晴らしさに気づいてほしいのです。

それは写真が生まれた100年前に、海外や他の世界の風景など、それらの世界を実際に見た事のない人たちが、その景色の写真を見て感動しただろう、という事に似ています。僕はこの現代でそういうことをしたいのです。それで、自分たちは自然の一部だと確認をしてもらいたいのです。ひいては、写真というものが、自然を保護し得る一つの手段になればいいと思うのです。

そこでこのジェネシスプロジェクトは期間を限定させることにしました。写真家の仕事は、だらだらとしないためにも期間を限定させなくてはならないのです。設定した期間は、8年間です。8年あれば30個くらいのルポルタージュが出来るだろうと考えています。それで、どうすれば、その30個という数字で"私の見る地球"を表現出来るかを考えました。

そのためにジェネシスプロジェクトを4つのチャプターに分けました。1つ目は自然、風景の写真です。見た人が溶け込めるような、あるいは写真から風景の威厳が伝わる様な写真に出来ればと思っています。2つ目は、動物です。私はこれまで、人間にしかレンズを向けませんでしたが、ゴリラや象、またはクジラなどの動物にも、人々に個性があるように、彼らにも個性があると思い、その動物達はチャプターの一つを占めるに至ったのです。3つ目は、コミュニティです。それも、初期段階にある人間のコミュニティで、いわゆるブッシュマンなどがそれにあたります。アマゾンでも1600年前と同じスタイルで今も生きている人々がいることなどを知ってほしいと思います。4つ目は、自然との調和です。動物と、家畜と、水と、自然と調和する部族の生活で表現したいと思っています。

最後に、このジェネシスプロジェクトがどのようにして皆さんに届くかと言うと、今回は今までよりも民主的なアプローチを試みたいと思っています。野外の公園で大きな写真展を開けば多くの道行く一般の方々が見るでしょうし、そういう公の場所からのアプローチです。みんなが何気なく見る所、というテーマで写真展示を行いたいのです。また、本の出版をこれから同時に進めて行きます。高価な写真集ではなく、安価なもので、出来れば一家に一冊置いてもらえる様なレヴェルの写真集をつくりたいと思っています。あとは、映画もつくっています。丁度ヴィム・ヴェンダースが今映像を撮ってくれている所です。

これらのアプローチに触れた皆さんが、地球の一部であることを思い出して貰えたら嬉しいと思います。そしてグローバルな視点で物事を考えられるようになれたら、それほどの喜びは他にありません。本日はお越しいただき本当にありがとうございました。


*Q&Aの時間*

質問は3つ。その殆どはちぐはぐな答えでしたが・・・。

1.都市でもジェネシスはありますか?
→私は数日前に屋久島に行きました。
それを見て希望を感じました。

2.セバスチャン・サルガドさんを人間として、
写真家として動かしているものはなんですか?
→人間としてとか、写真家として、とか、そういった区別はありません。
私は写真を撮っている時も、私という人間ですから。
写真を撮る事は自分の生き方を提示するという事なのです。
写真とは色濃く物事が写る瞬間を捉えています。
この濃縮された瞬間こそ、私の歴史そのものなのです。


3.なんでモノクロしか撮らないのですか?
→写真家はカラー専門、モノクロ専門とあって両立するのはなかなか難しいものです。
白黒は撮影した時に既に抽象化されています。
白黒の写真を見た人は自分の頭の中で色を造りだす事が出来ます。
それは個人にゆだねる部分が多いという事で、
言い換えれば私の写真が、見た人の写真にもなり得る可能性がある、ということです。
だから、カラーが出てきた時にもモノクロは消えませんでした。
私はモノクロの抽象化の力を信じているからモノクロで撮っています。
そして、これからもモノクロで撮影を続けていくと確信しています。

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